相続した非上場株式を会社に売るときの税金はどうなる?
相続した非上場株式を会社に売るときの税金|みなし配当の特例と注意点
非上場株式を相続しても、その株式をすぐに現金に換えられるとは限りません。相続税の納税や保有株式の整理のため、株式を発行した会社への売却を検討することがあります。
ただし、個人が発行会社に株式を売ると、売却代金の一部が「みなし配当」として扱われることがあります。相続した非上場株式には、このみなし配当課税を行わない特例がありますが、対象者・売却期間・届出の要件を満たす必要があります。
相続した株式だから自動的に特例が使えるわけではありません。売却を決める前に、相続税の有無、対象株式、期限と届出を確認し、税引き後の手取りを試算します。
本記事は、日本の居住者である個人が非上場株式を発行会社に売却する一般的な場面を扱います。
1.通常の売却で生じる「みなし配当」とは
会社が自ら発行した株式を株主から買い取る取引を、自己株式取得といいます。個人が非上場株式を発行会社に売却する場合は、通常の第三者への株式売却とは課税の仕組みが異なります。
原則として、受け取る対価が、その株式に対応する会社の「資本金等の額」を超える場合、その超過部分は配当を受け取ったものとみなされます。このみなし配当部分と、株式の譲渡所得を計算する部分を分けることになります。
資本金等の額は、売主の購入代金や相続税評価額とは別の金額です。会社側の税務資料から確認する必要があります。
非上場株式のみなし配当は原則として総合課税の対象です。会社による源泉徴収があっても、それだけで最終的な税負担が決まるとは限りません。給与など他の所得も踏まえて確認します。
課税の基本:国税庁 No.1477。配当所得の扱い:No.1330。
2.相続株式の特例が使える条件と期限
一定の要件を満たす相続株式の売却では、みなし配当課税を行わず、売却対価の全額を株式の譲渡所得の収入金額として扱う特例があります。売却代金の全額が利益になるという意味ではなく、そこから取得費や譲渡費用を差し引いて所得を計算します。
| 確認項目 | 主な条件 |
|---|---|
| 売却する人 | 相続または遺贈により財産を取得した個人で、その相続・遺贈について納付すべき相続税額があること。 |
| 売却する株式 | その相続税の課税価格の計算の基礎に含まれた非上場株式であること。 |
| 売却先 | その株式を発行した会社であること。他の株主への売却は、この特例の対象ではありません。 |
| 売却期間 | 相続開始日の翌日から、相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に売却すること。 |
| 手続き | 株式を譲渡する日までに、所定の届出書を発行会社へ提出すること。 |
相続税がかからなかった方や、贈与で取得した株式について、相続を理由にこの特例を使うことはできません。複数の相続人がいる場合も、売主本人の相続税と対象株式を確認します。
売却期間の末日は、相続開始日と申告期限に基づいて確認します。「相続から3年以内」とだけ覚えると、実際の期間を取り違えるおそれがあります。
適用条件と期間:国税庁 No.1477、届出手続 A2-31。
3.売却する日までに必要な届出
特例を利用する売主は、「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を、株式を譲渡する日までに発行会社へ提出します。
発行会社は、株式を譲り受けた年の翌年1月31日までに、その届出書を会社の本店または主たる事務所の所在地を管轄する税務署長へ提出します。売主と会社で、提出先と期限が異なります。
売主の届出は、売却後の確定申告で初めて行う手続きではありません。相続税申告書、対象株式数、売却予定日を確認し、会社側の担当者と売却前に準備してください。
届出書の控えと、会社へ提出した日が分かる記録を残し、売却した年の所得税の申告資料と一緒に保管しておくと、後から適用関係を確認しやすくなります。
4.取得費と、相続税の取得費加算
相続税評価額が、そのまま取得費になるわけではない
相続した株式の売却では、原則として、亡くなった方の取得費を引き継ぎます。相続税を計算した際の評価額を、そのまま売却時の取得費として差し引くことはできません。
設立時や増資時の払込資料、過去の売買契約書などを確認します。株式分割や複数回の取得があれば、その経緯も整理します。取得費が分からない場合にも取扱いがありますが、資料を調べずに金額を決めないことが大切です。
取得費の引継ぎと調整:国税庁 No.1464。
相続税の一部を取得費に加算できる場合がある
相続税が課税された財産を一定期間内に売却した場合、売却した財産に対応する相続税の一定額を取得費に加算できる特例があります。これは、みなし配当課税の特例と併用できる場合があります。
ただし、納付した相続税の全額を一括して差し引く制度ではありません。対象財産に応じた計算を行い、取得費への加算額は、加算前の譲渡益が上限となります。適用には、所定の明細書などを添えた確定申告が必要です。
取得費加算の要件・計算・申告書類:国税庁 No.3267。併用についてはNo.1477に記載があります。
5.具体例で見る税金と手取り
みなし配当課税の特例が使える場合を、架空の数字で確認します。2026年中の売却を想定し、取得費加算、他の株式の損益、所得控除等の影響は考慮しない簡略例です。
| 項目 | 例示金額・計算 |
|---|---|
| 売却代金 | 1,000万円 |
| 引き継いだ取得費 | 200万円 |
| 譲渡費用 | 10万円(税務上控除できる費用と仮定) |
| 譲渡所得 | 1,000万円 − 200万円 − 10万円 = 790万円 |
| 税額の概算 | 790万円 × 20.315% = 1,604,885円 |
| 売却後の手取り | 1,000万円 − 10万円 − 1,604,885円 = 8,295,115円 |
20.315%は、2026年分の所得税・復興特別所得税・住民税の合計です。実際の税額には申告上の端数処理などがあり、上の金額は計算の仕組みを示す概算です。相続税そのものは、この手取り計算から差し引いていません。
取得費は過去に支払われた金額なので、今回の手取りから再び差し引く支出ではありません。取得費加算が使える場合は、譲渡所得と税額を計算し直します。
特例が使えない場合は、みなし配当と譲渡所得の区分や他の所得を踏まえた別の試算が必要です。上の税率を売却代金全額に掛けるだけでは、正しい比較になりません。
株式譲渡の税率と計算方法:国税庁 No.1463。本例の金額は制度上の基準額ではありません。
6.価格・会社の資金・必要資料の確認
みなし配当課税の特例は、売却時の課税方法に関する制度です。特例が使えることだけで、売却価格の妥当性や会社側の取得手続まで決まるわけではありません。
価格の算定根拠、会社の買付資金、会社法上の手続と財源規制、売却後の株主構成を一緒に確認します。会社側の取得手続については、必要に応じて法律の専門家とも連携します。
相談前に、次の資料と情報を整理しておくと、特例の判定から手取りの試算まで進めやすくなります。
- 相続開始日、相続税の申告期限、売却予定日
- 相続税申告書と、対象株式の評価明細・取得株数が分かる資料
- 亡くなった方の株式取得費を確認できる払込資料・契約書
- 会社の決算書・税務申告書と、提示された買取価格の算定資料
- 株主名簿、定款、売却対象株式の種類・株数
- 売主の他の所得、売却に伴う費用、必要な納税資金
相続前から同じ会社の株式を持っていた方は、相続分と従来の保有分を区別できる資料も用意してください。株価の評価、特例の判定、会社側の手続を別々に進めず、売却前に予定をすり合わせることが重要です。
7.まとめ
相続した非上場株式を発行会社に売る場合は、みなし配当課税の特例と取得費加算の適用を確認します。特に、売主本人の相続税、対象株式、売却期間、売却する日までの届出を先に押さえてください。
その上で、適正な価格と税引き後の手取り、会社の買付資金・手続を確認します。相続税申告を担当した税理士と会社の顧問税理士が異なる場合も、売却前から情報を共有して進めると、手続の抜けを防ぎやすくなります。
相続した自社株の売却・税金のご相談
榊公認会計士・税理士事務所では、相続した非上場株式の評価、会社への売却に伴う税務の整理、売却後の税額・手取りの試算に対応しています。
相続税申告の状況と売却予定をお聞かせください。特例の適用と必要な資料を確認し、会社側の担当者との連携も含めて進めます。
主な参照資料
2026年10月初旬に確認。以下の国税庁タックスアンサーは、令和8年4月1日現在の法令等を基準とする資料です。
※本記事は2026年10月初旬に確認した公表資料に基づく一般的な解説です。個別の課税関係・特例の適用は、相続税の状況、株式の取得経緯、売却日、会社の状況等によって異なります。実際の売却・申告では、適用年の法令・通達と個別事情を確認してください。

