非上場株式の買取価格を提示されたら|同意前に確認したい5つのこと
非上場株式の買取価格を提示されたら|同意前に確認したい5つのこと
非上場株式には、上場株式のように市場で日々確認できる株価がありません。買取価格の提示を受けても、金額だけでは、どのような前提で計算されたのか分からないことがあります。
相続で取得した株式や、経営に関与していない会社の株式であれば、会社の状況を十分に把握できていない場合もあるでしょう。売却に同意する前に、価格の根拠と税金、契約条件を一緒に確認することが大切です。
本記事では、個人が保有する非上場株式について買取提案を受けた場面を想定し、確認したい5つの項目と、相談時に用意したい資料を整理します。
「いくらで売るか」に加え、「何を根拠に、誰に、どの条件で売り、手元にいくら残るか」を確認しましょう。相続税評価額や額面を示された場合も、その数字が今回の売却にどう結び付くのかを確認します。
1.価格の算定根拠を確認する
最初に確認したいのは、提示された価格の計算資料と、その前提です。「税理士が計算した」「以前もこの価格だった」という説明だけでは、今回の取引に合った評価かどうかを判断できません。
会社に対しては、評価方法、評価の基準日、使った決算書、会社全体の株式価値から1株当たりの価格を求めた過程を確認すると、話を具体的に進めやすくなります。
決算書の数字を、そのまま価格にしていないか
決算書の純資産を基にする場合でも、土地や有価証券などの帳簿価額と時価に差がないか、回収が難しい債権や決算書に表れていない債務がないかを確認します。利益を基にする場合は、資産売却益など一時的な要因と、継続して見込める利益を分けて考えます。
中小企業庁の中小M&Aガイドラインの参考資料でも、純資産や類似会社との比較など、複数の評価方法が紹介されています。算定した価値がそのまま成約価格になるとは限らず、案件に応じた方法の選択と条件の交渉が必要とされています。
参考:経済産業省・中小企業庁 中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料2「中小M&Aの譲渡額の算定方法」(PDF)
相続税評価額と、今回の売却価格を区別する
相続税評価額は、相続税・贈与税を計算するための評価額です。取引相場のない株式は、会社の規模や取得する株主の区分などによって評価方法が分かれます。
その評価額を売却交渉の参考にすることはありますが、相続したときの評価額が、現在の売却価格やすべての税目に共通する時価になるとは限りません。評価した時点、当時と現在の業績、株主の立場、今回の売却先を分けて確認します。
額面や当初の払込額についても、現在の会社の資産・収益を反映した価格かどうかは別の問題です。
相続税・贈与税の評価方法:国税庁 No.4638「取引相場のない株式の評価」
2.売る株式の権利と株主の立場を確認する
同じ会社の株式でも、会社全体を取得する取引と、少数の株式だけを買い取る取引では、買い手が取得する権利や取引条件が異なります。会社全体の価値に持株割合を掛けた数字だけで、結論を出さないことが大切です。
保有株数と持株割合に加え、議決権の割合、株式の種類、配当の条件、譲渡制限、株主間契約を確認します。普通株式と種類株式がある場合は、配当や残余財産の分配などの権利の違いも整理します。
「少数株主だから安くなる」という説明には、調整の根拠を確認しましょう。売却のしにくさや経営への関与の程度を価格に反映する考え方はありますが、すべての株式に同じ割引率を適用できるわけではありません。どの権利・制約を、どのように織り込んだのかが確認のポイントです。
売却交渉で考える「少数株主の立場」と、税務評価で使う株主の区分は、同じものとして扱わないようにします。税務上の区分では、本人の持株割合だけでなく、同族関係者を含めた議決権の状況なども確認が必要です。
税務評価における株主区分:国税庁 No.4638「取引相場のない株式の評価」
3.買い手が誰かを確認する
価格を提示した人と、契約上の買い手が同じとは限りません。社長から連絡があったとしても、買うのが社長個人なのか、株式の発行会社なのか、別の法人なのかを確認します。
株式の発行会社が自社の株式を買い取る場合は、「みなし配当」が生じることがあります。みなし配当とは、法律上は売買でも、受け取る対価の一部を税務上は配当として扱うものです。
| 契約上の買い手 | 個人株主が確認したい税務上の点 |
|---|---|
| 株式の発行会社 | 対価のうち、売却する株式に対応する税務上の資本金等の額を超える部分は、原則としてみなし配当。相続株式には一定の要件で特例があります。 |
| 他の株主・第三者の個人 | 通常の売買は株式の譲渡所得として計算。個人間で著しく低い価格にすると、買い手側に贈与税の問題が生じる場合があります。 |
| 発行会社以外の法人 | 通常の売買は株式の譲渡所得として計算。親会社・グループ会社も、発行会社自身による買取りとは区別し、取引価格の税務上の妥当性を確認します。 |
非上場株式のみなし配当は、原則として他の所得と合算する総合課税の対象です。源泉徴収された額が、そのまま最終的な税負担になるとは限りません。
相続した非上場株式を発行会社へ売る場合は、一定の要件を満たすと、みなし配当課税を行わず、売却対価の全額を譲渡所得の収入金額とする特例があります。納付すべき相続税額、売却期限、届出などの要件を、売却前に確認しましょう。
参考:国税庁 No.1477「相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」、No.1330「配当金を受け取ったとき(配当所得)」、No.4423「個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」
4.税引き後の手取りを確認する
提示額は、税金や売却にかかる費用を差し引く前の金額であることが一般的です。売却後に必要な資金がある場合は、入金額だけでなく、納税と費用の支払いを終えた後の手取りで考えます。
通常の株式売却では、売却代金から取得費と売却手数料等を差し引いて譲渡所得を計算します。2026年分の一般株式等の譲渡所得に対する税率は、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%です。
発行会社への売却でみなし配当が生じる場合には、譲渡所得と配当所得を分けた試算が必要です。売却代金全体に20.315%を掛けるだけでは、正しい手取りを把握できません。
計算方法と税率:国税庁 No.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
相続税評価額を、取得費として使わない
相続した非上場株式の取得費は、原則として亡くなった方の取得費を引き継ぎます。相続税申告で使った評価額に置き換えるものではありません。限定承認など、扱いが異なる場合は別途確認が必要です。
取得費の資料が見つからない場合も、すぐにゼロと決めず、当初の払込記録や売買契約書、過去の増資・株式分割の資料を探します。取得費が分からない場合には、売却代金の5%相当額を取得費とする取扱いもありますが、まず実際の取得費を確認することが重要です。
取得費の扱い:国税庁 No.1464「譲渡した株式等の取得費」
手取りの簡単な計算例
次は、2026年に発行会社以外へ通常の売買で売却し、みなし配当が生じない場合の例示です。取得費100万円、税務上差し引ける売却費用10万円、売却代金800万円と仮定します。
譲渡所得:800万円 − 100万円 − 10万円 = 690万円
税額の概算:690万円 × 20.315% ≒ 140万円
納税・売却費用支払後の手取り:800万円 − 140万円 − 10万円 ≒ 650万円
取得費100万円は過去に支払った費用なので、今回受け取る800万円から改めて支払うものではありません。上記は他の株式取引、特例、所得控除、税額控除、端数処理などを考慮しない概算です。支払った相談料等がすべて税務上差し引けるとは限らないため、費用ごとに確認します。
この計算例を、みなし配当が生じる自己株式の買取りにそのまま使うことはできません。相続株式の特例などを検討する場合も、適用要件を確認した上で試算します。
5.契約条件と手続・期限を確認する
価格に納得できても、支払いの条件や売却後の義務が不明確なままでは、安心して判断できません。口頭の説明に加えて、提案書や契約書案で条件を確認しましょう。
| 項目 | 同意前に確認する内容 |
|---|---|
| 価格の位置付け | 概算・交渉開始時の提示か、最終価格か。今後の調査や決算に応じて変更される条件があるか。 |
| 代金の支払い | 一括払いか分割払いか。支払日、支払主体、株式移転と入金の順序はどうなっているか。 |
| 売却の範囲 | 全部の株式か一部か。売却までの配当や、売却後に残る株式の扱いはどうなるか。 |
| 売却後の義務 | 事実関係の保証、損害補償、秘密保持など、価格以外の約束を求められていないか。 |
| 手続と期限 | 必要な会社の承認・決議、契約締結日、株式移転日、税務の特例に関する期限が整理されているか。 |
他の株主や第三者へ譲渡する場合は、定款や株主間契約を確認し、譲渡承認の要否を整理します。発行会社による自己株式の取得では、会社法上の決議や財源規制などの確認も必要です。具体的な手続や契約条項は、法律の専門家と確認します。
法令の確認先:e-Gov法令検索「会社法」(譲渡制限株式の承認、自己株式の取得、分配可能額に関する規定等)
回答期限を指定されている場合は、その理由と、価格資料・契約書案を確認するための時間が確保できるかを確認します。相続株式の特例など、税務上の期限が関わるときは、契約日だけでなく実際の譲渡日や届出の時期も合わせて整理しましょう。
相談前に準備したい資料
価格の説明資料がそろっていない段階でも、手元の資料から確認事項を整理できます。まずは、誰からどのような提案を受け、いつまでに回答を求められているかを伝えられるようにしましょう。
- 買取提案書、価格の計算資料、提案に関するメール等
- 直近数期の決算書、可能であれば最近の試算表
- 株主名簿、保有株数・議決権が分かる資料、定款、株主間契約
- 株式取得時の払込記録・売買契約書、増資や株式分割の資料
- 相続した株式であれば、相続税申告書、評価明細、相続開始日が分かる資料
- 買い手の名称、契約書案、回答期限と予定されている支払日
会社の内部資料を入手できない場合は、分かる範囲と入手できていない資料を分けて伝えます。資料が不足している部分については、何を追加で確認すると価格や税金の判断に近づけるかを整理します。
提示された金額を、判断できる形にする
非上場株式の買取価格は、金額だけを見て高い・安いと決めることが難しいものです。計算の前提、株式の権利、買い手、手取り、契約条件を確認すると、提案の内容と、自分にとっての意味が見えてきます。
価格に疑問がある場合は、まず算定根拠の説明を求めましょう。その上で、売却価格の検討と税務上の時価・課税関係を整理し、合意前に判断に必要な情報をそろえることが大切です。
非上場株式の買取提案を受けた方へ
提示価格の算定根拠、株主としての立場、売却先による税務上の違いを整理し、税引き後の手取りも含めた判断を支援します。
提案書や価格の計算資料、回答期限がある場合は、相談時にお知らせください。
主な参考資料
公的機関の資料を基に、2026年10月前半時点の情報を整理しています。
本記事は、個人が保有する非上場株式の通常の売却を念頭に置いた一般的な解説です。法人株主による売却、組織再編、法定の株式買取請求等は別途検討が必要です。評価額、税務上の時価、税額、特例の適用は、株主構成・取引内容・取得の経緯等に基づいて確認してください。

