非上場株式はいくらで売っていい?相続税評価額で売れば大丈夫?
非上場株式はいくらで売っていい?相続税評価額で売れば大丈夫?
「自社株を共同経営者に売りたいのですが、いくらにすればよいですか?」
「相続税評価額を計算して、その金額で売れば問題ないでしょうか?」
非上場株式の売買では、このようなご相談があります。
結論からいうと、非上場株式について、
「相続税評価額で売れば必ず問題ない」
「時価の半額以上なら大丈夫」
と一律に判断することはできません。
非上場株式には、上場株式のように日々確認できる市場価格がありません。
さらに、
- 誰から誰へ売却するのか
- 売主と買主が個人なのか法人なのか
- 両者に親族関係や資本関係があるのか
などによって、確認すべき税務上のルールが変わります。
この記事では、非上場株式を売却するときの価格について、代表的なケースに分けて分かりやすく解説します。
非上場株式の売買では、「株価がいくらか」だけでなく、「誰から誰へ売るのか」まで確認することが重要です。個人間の売買、個人から法人への売買、法人から役員への売買では、それぞれ税務上の確認事項が異なります。
1.非上場株式に「この価格なら必ず大丈夫」という金額はない
まず押さえておきたいのは、非上場株式の売買価格について、すべての取引に共通する「この金額なら大丈夫」という基準があるわけではないということです。
たとえば同じ会社の株式でも、
- 個人から個人へ売却する
- 個人から法人へ売却する
- 法人から役員へ売却する
- 第三者へのM&Aで売却する
といったケースでは、税務上確認すべき内容が異なります。
大まかに整理すると、次のようになります。
※以下は、通常の株式譲渡に伴う所得税や法人税などに加えて、売買価格を決める際に特に注意したい論点を簡略化して記載しています。
個人 → 個人
主に確認すること:
著しく低い価額で売買した場合の買主側の贈与税。非上場株式では、財産評価基本通達による相続税評価額が重要な基準になります。
個人 → 法人
主に確認すること:
売主側のみなし譲渡など。時価の2分の1未満で売却する場合は特に注意が必要です。また、同族会社との取引では、時価の2分の1以上であっても別の税務上の規定が問題となる場合があります。
法人 → 役員
主に確認すること:
時価より低い価格で譲渡した場合、時価との差額が役員への経済的利益として扱われる可能性があります。
第三者間のM&A
主に確認すること:
会社の収益力、資産・負債、成長性などを踏まえて価格を検討し、最終的には売主と買主の交渉によって決まります。
「株価はいくらか」だけではなく、「誰から誰へ売るのか」まで確認しないと、税務上の取扱いを判断することはできません。
2.個人から個人へ売却する場合
まず、個人株主が別の個人へ非上場株式を売却するケースです。
たとえば、
- 親から子へ売却する
- 創業者から共同経営者へ売却する
- 既存株主同士で売買する
といったケースが考えられます。
個人から個人へ財産を著しく低い価額で譲渡した場合には、買主側について、時価と実際に支払った金額との差額が贈与によって取得したものとみなされることがあります。
ここで重要なのが、「時価」をどのように考えるかです。
個人から個人への低額譲渡に伴う贈与税の判定では、非上場株式については、原則として財産評価基本通達による相続税評価額が重要な基準になります。
また、非上場株式の相続税評価では、誰がその株式を取得するのかによって評価方法が変わる場合があります。
たとえば、買主側の株主区分や議決権割合などによって、類似業種比準方式や純資産価額方式などの原則的評価方式を使うのか、配当還元方式を使うのかが変わることがあります。
そのため、単に会社全体について一度計算した株価を、どの買主にもそのまま使えるとは限りません。
「相続税評価額の50%以上なら大丈夫」という一律の基準があるわけでもありません。
「著しく低い価額」に該当するかどうかは、個々の具体的な事情に基づいて判断されます。
したがって、たとえば相続税評価額が1,000万円の株式について、「500万円以上で売れば絶対に問題ない」とはいえません。
3.個人から法人へ売却する場合
次に、個人が法人へ非上場株式を売却するケースです。
たとえば、
- 経営者個人が保有する株式を自分の会社へ売却する
- 個人株主が別の法人へ株式を売却する
といったケースです。
この場合には、個人間の取引とは異なるルールがあります。
個人が法人に対して、譲渡所得の対象となる資産を時価の2分の1未満の金額で譲渡した場合には、所得税法上、原則として実際の売却価格ではなく、時価で譲渡したものとして譲渡所得を計算します。
いわゆる「みなし譲渡」です。
たとえば、税務上の時価が1,000万円と判断される株式を法人へ300万円で売却した場合、
「300万円でしか売っていないから、300万円を基準に所得税を計算すればよい」
とは限りません。
時価を基準として譲渡所得を計算することがあります。
では、「500万円以上なら問題ないのか」というと、これも単純ではありません。
時価の2分の1以上であれば、この「時価の2分の1未満」を対象とするみなし譲渡の規定には原則として該当しません。
ただし、同族会社との取引によって所得税の負担が不当に減少する結果となる場合などには、別途、同族会社等の行為・計算の否認に関する規定が問題となることがあります。
また、買主である法人側についても、時価との差額について法人税上の課税関係を検討する必要があります。
取引の相手が同族会社等である場合には、時価の2分の1以上であっても別の税務上の検討が必要になることがあります。
4.相続税評価額が重要なケースと、そのまま使えないケースがある
非上場株式の売買で特に分かりにくいのが、
「相続税評価額と売買価格の関係」
です。
非上場株式を相続・贈与する場合には、財産評価基本通達に基づいて株式を評価します。
また、先ほど説明した個人から個人への低額譲渡における贈与税の判定でも、非上場株式の相続税評価額は重要な基準になります。
その意味で、
「非上場株式の売買では相続税評価額は関係ない」
というわけではありません。
一方で、
「相続税評価額を一度計算すれば、どのような売買でもその金額を使えばよい」
というわけでもありません。
たとえば、個人から法人への株式譲渡について所得税上の時価を検討する場合にも、財産評価基本通達による非上場株式の評価方法が基礎となります。
ただし、そのまま相続税評価額を使うわけではありません。
所得税基本通達では、たとえば同族株主等に該当するかどうかについて、株式を取得する法人ではなく、株式を売却する個人の譲渡直前の議決権の状況を基準に判定するなど、一定の調整を行うこととされています。
「相続税評価額 = あらゆる株式売買にそのまま使える税務上の時価」ではありません。
誰から誰へ株式を売るのかによって、適切な株価を確認する必要があります。
5.法人から役員へ安く売る場合にも注意が必要
反対に、法人が保有している株式を、その会社の役員などへ売却するケースもあります。
この場合も、売買価格を自由に決めれば税務上もその価格で処理できるとは限りません。
法人が役員に対して資産を時価より低い価格で譲渡し、その利益が役員としての地位に基づくものと認められる場合には、時価と実際の売却価格との差額が役員に対する「経済的利益」として、給与として扱われることがあります。
たとえば、時価1,000万円の資産を役員へ300万円で売却したという場合、
単純に「会社は300万円で売った」だけで税務処理が終わるとは限りません。
売却する法人側と、取得する役員側の双方について、課税関係を確認する必要があります。
このように、非上場株式の売買では、「売る側の税金だけ確認すればよい」というわけでもありません。
6.第三者へのM&Aでは価格の決まり方が違う
資本関係や親族関係のない第三者へ会社を売却するM&Aでは、価格の決まり方が大きく異なります。
M&Aでは、
- 会社の現在の利益
- 将来の収益力やキャッシュ・フロー
- 保有している資産や負債
- 事業の成長性
- 顧客基盤や技術力
- 買収によるシナジー
- 売主と買主の交渉
など、さまざまな要素を踏まえて価格が検討されます。
そのため、たとえば相続税評価額が3,000万円の会社について、
「M&Aでも3,000万円で売らなければならない」
ということではありません。
会社の収益力や買主側の評価によっては、それより高い価格で売買されることもあります。
反対に、会社の事業内容や取引条件などによっては、相続税評価額とは異なる価格で交渉が成立することもあります。
「相続税・贈与税のための評価額」と「第三者とのM&Aで形成される取引価格」は、目的も価格の決まり方も異なります。
7.売買価格を決める前に確認したいこと
非上場株式を売却する場合には、価格を決める前に、少なくとも次の点を確認しておくことをおすすめします。
- 売主は個人か法人か
- 買主は個人か法人か
- 売主と買主に親族関係や資本関係があるか
- 売却する株式数と議決権割合
- 売却前後の株主構成
- 会社の直近の決算内容
- 過去に株式を売買した実績があるか
- どのような目的で株式を移転するのか
- 売買価格をどのような根拠で決めたのか
特に、
- 親族
- 共同経営者
- 自分が経営する会社
- 役員や従業員
などの関係者との取引では、
「双方がこの価格で合意したから問題ない」
とは限りません。
取引を行った後になってから価格の妥当性を説明するよりも、実際に株式を移転する前に、評価方法と売買価格の根拠を整理しておくことが重要です。
8.よくある3つの誤解
相続税評価額は、非上場株式の売買において非常に重要な基準になるケースがあります。
特に、個人から個人への低額譲渡に伴う贈与税の判定では重要です。
一方、売主・買主が個人なのか法人なのかによって、税務上検討すべき時価の考え方が異なる場合があります。
したがって、どのような取引でも相続税評価額をそのまま使えばよいわけではありません。
個人から法人への低額譲渡では、「時価の2分の1未満」という基準がみなし譲渡の判定に使われます。
しかし、この基準をすべての株式売買に当てはめることはできません。
特に個人から個人への低額譲渡については、「50%以上なら安全」というルールではありません。
また、個人から同族会社への譲渡では、時価の2分の1以上であっても、別の税務上の規定が問題となる場合があります。
契約上の売買価格は当事者間で決めることができます。
しかし、その価格によって税務上どのような課税関係が生じるかは別の問題です。
特に親族や同族会社、役員などの関係者間の売買では、売買価格の根拠を確認しておくことが重要です。
まとめ
非上場株式について、
「いくらで売れば税務上問題ないのか」
という質問に、すべてのケースに共通する1つの答えはありません。
特に、
- 個人から個人への売却
- 個人から法人への売却
- 法人から役員等への売却
- 第三者へのM&A
では、確認すべき税務上のルールが異なります。
また、「相続税評価額で売れば大丈夫」「時価の半額以上なら大丈夫」と単純に判断することもできません。
一方で、相続税評価額は、特に個人間の非上場株式売買などでは重要な基準になります。
重要なのは、「株価はいくらか」だけを見るのではなく、「誰から誰へ」「どのような関係の当事者間で」「何の目的で」株式を売却するのかまで確認することです。
非上場株式を実際に移転した後ではなく、売買価格を決める段階で税務上の取扱いを確認しておくことをおすすめします。
非上場株式の評価・売買価格のご相談
榊公認会計士・税理士事務所では、非上場株式の評価や株式売買に関するご相談をお受けしています。
「共同経営者へ株式を売却したい」
「親族間で株式を売買したい」
「相続税評価額を計算したが、この価格で売買する場合の税務上の留意点を確認したい」
「個人から自分の会社へ株式を売却したい」
といった段階でもご相談いただけます。
実際に株式を移転した後ではなく、売買価格を決める段階でご相談いただくことで、取引当事者や株主構成を踏まえて税務上の論点を確認することができます。
非上場株式の評価や株式売却をご検討されている方は、お問い合わせください。
※本記事は2026年9月時点の法令・通達等に基づき、一般的な内容を解説したものです。実際の税務上の取扱いは、会社の状況、株主構成、取引当事者、取引条件等によって異なります。

