非上場株式は「誰に売るか」で税金が変わる!?
公認会計士・税理士が解説
「会社に株を売ると最大55%」は、
半分正しく、半分誤解です。
税負担を左右するのは、買主が単に「会社」かどうかではありません。その会社が、売る株式を発行した会社自身なのか、まったく別の買収会社なのかが重要です。
発行会社自身が自社株を買い戻す場合は、売主が受け取る対価の一部が「みなし配当」となり、個人の売主に総合課税されることがあります。一方、別会社がM&Aで株式を取得する場合は自己株式取得ではなく、個人の売主には原則として20.315%の申告分離課税が適用されます。
したがって、「買主が会社なら最大55%」「代表者個人に変えれば必ず得」という理解は正確ではありません。
登場人物を固定して考える
「会社」「代表者」だけでは関係が分かりにくいため、この記事では次の4者に固定します。
パターン1:ABC社自身が買う
ABC社 → 山田さん:5,000万円を支払う
山田さん → ABC社:ABC社株式を渡す
ABC社が自社の株式を買い戻すため、これは自己株式の取得です。山田さん側で、みなし配当が生じる可能性があります。
パターン2:XYZ社がM&Aで買う
XYZ社 → 山田さん:5,000万円を支払う
山田さん → XYZ社:ABC社株式を渡す
XYZ社が買うのはXYZ社株式ではなく、別会社であるABC社の株式です。自己株式取得ではなく、山田さんにとっては通常の非上場株式の譲渡です。
パターン3:佐藤さんが個人で買う
佐藤さん個人 → 山田さん:5,000万円を支払う
山田さん → 佐藤さん個人:ABC社株式を渡す
この場合もABC社自身は買っていないため、通常の非上場株式の譲渡です。ただし、佐藤さんが個人で資金を用意し、時価で実際に取得することが前提です。
| 買主 | 取引の性質 | 山田さんの原則的な課税 |
|---|---|---|
| ABC社自身 | 自己株式取得 | 資本金等対応額を超える部分は、みなし配当になり得る |
| XYZ社 | 第三者へのM&A | 通常の株式譲渡。譲渡益に原則20.315% |
| 佐藤さん個人 | 個人間の株式売買 | 通常の株式譲渡。譲渡益に原則20.315% |
山田さん自身がABC社の代表者である場合
山田さんは売主本人なので、「買主を代表者個人に変える」という選択肢は、そのままでは成立しません。自分が自分から株式を買うことはできないためです。元の説明が誰を売主・代表者としているのかを、最初に確認する必要があります。
なぜ発行会社が買うと「みなし配当」になるのか
個人株主が非上場株式を発行会社へ譲渡し、金銭などを受け取った場合、その対価はすべてが株式の譲渡収入になるとは限りません。
原則として、受け取った対価のうち、発行会社の資本金等の額のうち譲渡株式に対応する部分を超える金額は、配当所得とみなされます。受取対価からみなし配当額を差し引いた金額が、株式譲渡の収入金額になります。
みなし配当 = 受取対価 − 譲渡株式に対応する資本金等の額
※計算結果がマイナスの場合は0円
株式譲渡の収入金額 = 受取対価 − みなし配当額
株式譲渡損益 = 株式譲渡の収入金額 − 取得費 − 譲渡費用
ここで使う「資本金等の額」は、会社の資本金だけを見て決めるものでも、売買価格から売主の取得費を引いた金額でもありません。会社側の税務上の資本金等の額と株式数などを基に、譲渡株式に対応する金額を計算します。
みなし配当とされた部分には、株式の取得費を直接ぶつけられません
取得費は株式譲渡部分の計算に使います。資本金等対応額が小さい会社では、譲渡部分が損失となる一方、多額のみなし配当が生じることもあります。
5,000万円で売る場合の具体例
以下は仕組みを示すための単純化した例です。
- ABC社株式の売却価格:5,000万円
- 山田さんの取得費:100万円
- 譲渡株式に対応するABC社の資本金等の額:100万円
- 譲渡費用:なし
ABC社自身が買い戻す場合
みなし配当:5,000万円 − 100万円 = 4,900万円
株式譲渡損益:100万円 − 取得費100万円 = 0円
4,900万円は、非上場株式に係る配当所得として原則総合課税の対象になります。支払時には原則20.42%の所得税等が源泉徴収されますが、それで課税が完結するとは限らず、確定申告で他の所得と合算して精算します。
XYZ社または佐藤さん個人が買う場合
株式譲渡益:5,000万円 − 取得費100万円 = 4,900万円
税額:4,900万円 × 20.315% = 995万4,350円
売却代金から上記税額を引いた金額:4,004万5,650円
非上場株式は税務上「一般株式等」に該当し、その譲渡益には所得税等15.315%と住民税5%、合計20.315%が原則として適用されます。なお、2027年以後も合計税率は変わりませんが、防衛特別所得税の創設に伴い、所得税等の内訳は変更されます。
第三者法人へ低額で譲渡する場合にも注意
XYZ社のような法人に時価より著しく低い価格で譲渡すると、売主側で時価による譲渡があったものとみなされることがあります。特に、法人へ時価の2分の1未満で譲渡する場合は、実際の売買価格だけを基準に税額計算できない可能性があります。
ただし、上記の手残りは譲渡費用や他の一般株式等の損益などを考慮しない単純計算です。
「最大55%」をそのまま掛けてはいけない
みなし配当は総合課税なので、課税所得が高い部分には所得税45%と住民税10%が適用され得ます。さらに所得税には特別所得税が加わるため、最高税率を単純に合計すると約56%になります。このため、説明上「最大約55%」と表現されることがあります。
しかし、次の理由から、みなし配当4,900万円に55%を掛けるだけの計算は正確ではありません。
- 所得税は超過累進税率であり、所得全体に最高税率がかかるわけではない
- 税額は、山田さんの給与・事業所得、所得控除などによって変わる
- 国内法人からの配当で総合課税されるものは、要件を満たせば配当控除の対象になり得る
- 支払時の20.42%は源泉徴収税率であり、最終的な実効税率ではない
正しい伝え方
「発行会社への売却では、対価の大部分が総合課税のみなし配当となり、通常の20.315%の株式譲渡より税負担が大きくなる場合がある」と説明するのが適切です。「必ず55%」「必ず手取りが半分になる」とは限りません。
買主を代表者個人に変える前に確認すること
発行会社ではなく代表者個人が買えば、売主側では通常の株式譲渡となるのが原則です。ただし、契約書上の買主名を変えるだけで安全な取引になるわけではありません。
- 買主個人が代金を調達できるか:5,000万円を個人として用意し、実際に支払う必要があります。
- 会社資金をどう扱うか:会社が代表者へ貸し付ける場合、利率、返済能力、利益相反取引の承認など別の論点が生じます。
- 売買価格は時価か:個人間で著しく低い価額にすると、時価と対価との差額について買主側に贈与税が生じる可能性があります。
- 実質と契約が一致するか:代表者が名義上の買主にすぎず、代金も経済的負担も会社に帰属するような設計は避けるべきです。
- 譲渡承認が必要か:譲渡制限株式であれば、定款と会社法に従った承認手続を確認します。
また、発行会社による自己株式取得そのものにも、会社法上の決議手続、特定株主から取得する場合の手続、分配可能額などの確認が必要です。税率だけで買主を決めるのではなく、資金・支配権・会社法・税務を一体で検討します。
相続した非上場株式には重要な特例がある
相続または遺贈で取得した非上場株式を発行会社へ売る場合には、一定の要件と手続の下で、みなし配当課税を行わず、受取対価の全額を株式譲渡の収入金額とする特例があります。
主な要件は、相続または遺贈について納付すべき相続税額がある個人が、相続税の課税対象となった非上場株式を、所定の期限内にその発行会社へ譲渡することです。期限は、原則として相続開始日の翌日から、相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。
この特例を受けるには、株式を譲渡する日までに所定の届出書を発行会社へ提出する必要があります。発行会社側にも、その届出書を翌年1月31日までに所轄税務署へ提出する手続があります。また、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例を併用できる場合があります。
「発行会社に売ると必ずみなし配当」でもありません
相続株式の特例は、期限と事前の届出が重要です。契約・譲渡後に気付くと対応できないおそれがあるため、売却前に要件を確認します。
株式譲渡契約を結ぶ前の確認項目
非上場株式の売却相談では、最低限、次の資料と事実関係を確認します。
- 売主・買主の氏名または法人名と、それぞれの関係
- 売却対象株式の発行会社と、買主が同一法人かどうか
- 売却株数、発行済株式数、自己株式数、株式の種類
- 売却価格と、その価格を決めた根拠
- 売主の取得時期、取得価額、取得経緯
- 発行会社の税務上の資本金等の額
- 相続または遺贈で取得した株式かどうか
- 代金の調達方法と実際の資金負担者
- 定款、株主名簿、株主総会・取締役会等の必要手続
なお、この記事は「個人が非上場株式を売る株式譲渡」を前提にしています。売主が法人の場合、事業譲渡で会社の資産を売る場合、組織再編を使う場合は課税関係が異なります。
まとめ
- 買主が単に「会社」であるだけでは、自己株式取得にならない
- 発行会社自身が買う場合に、対価の一部がみなし配当になり得る
- 第三者企業がM&Aで買う場合は、個人売主に原則20.315%の株式譲渡課税
- 「最大55%」は最高限界税率を単純化した表現で、対価全額に一律でかかるわけではない
- 代表者個人への変更には、資金調達、時価、実質、会社法手続の確認が必要
- 相続株式の発行会社への売却には、みなし配当を避けられる特例がある
最初に確認すべき質問は、「会社が買うのですか」ではなく、「売る株式の発行会社自身が買うのですか。それとも別会社が買うのですか」です。
非上場株式の売却を検討している方へ
契約前に、買主、資金の流れ、売買価格、取得費、資本金等の額を整理すると、想定外の課税を避けやすくなります。個別の取引は、実行前にご相談ください。
無料相談を申し込む※本記事は2026年8月時点の法令・通達等に基づき、個人が国内の非上場会社の株式を譲渡する一般的なケースを説明したものです。実際の課税関係は、株式の取得経緯、株主構成、売買価格、取引手法その他の事情により異なります。具体的な取引は、契約・実行前に税理士、弁護士等の専門家へご相談ください。


